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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)3102号 判決

原告

竹内功

被告

中川敏男

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自、一一三万〇四八六円及びこれに対する昭和五七年九月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その七を被告らの、その余を原告の、各負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自、一六三万四六〇七円及びこれに対する昭和五七年九月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一)日時 昭和五七年九月七日午前〇時五〇分ころ

(二) 場所 東京都品川区西五反田七丁目二三番一〇号先路上

(三) 加害車両 普通乗用自動車(タクシー)

右運転者 被告中川敏男(以下「被告中川」という。)

(四) 被害車両 普通乗用自動車(タクシー)

右運転者 訴外稗田精二

右同乗者 原告

(五) 態様 原告は、被害車両に同乗中、加害車両に追突され、その結果全治四〇日を要する頚部捻挫等の損害を負つた。

(右事故を、以下「本件事故」という。)

2  責任

被告中川は、信号待ちで停車中の被害車両に、前方不注視の過失によつて加害車両前部を衝突させたものであるから、民法第七〇九条の規定に基づき、原告の被つた損害を賠償すべき責任がある。

被告第三コンドルタクシー株式会社は、加害車両を自己のため運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条の規定に基づき、原告の被つた損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 治療費 七万七七〇六円

原告は、前記傷害の治療のため、事故当日である昭和五七年九月七日から同年一〇月一六日まで第三北品川病院に実日数一八日通院し、その治療費として右金額を支出した。

(二) 通院等交通費 二万〇四四〇円

原告は、前記通院等のための交通費として右金額を支出した。

(三) 休業損害 五三万三三〇〇円

(主位的主張)

原告は、不動産業を営む株式会社竹の屋商店(以下「竹の屋商店」という。)の代表取締役であるが、同会社は、税金対策上設立されたもので、実質は原告の個人経営であり、使用人三名の個人会社である。

原告は、本件事故による前記受傷のため四〇日間休業したが、その間も同会社から従前と同様に月額四〇万円の支給を受けてきた。

しかしながら、同会社は、稼働しない原告に対して右の支払をなしたものであるから、いわば損害賠償債務を負担する被告らに代わつて休業損害の立替払をなした関係にあり、しかも同会社は原告と経済的同一性のある個人会社であるから、右立替払による同会社の損害は原告の損害と同視しうるものである。

したがつて、原告は、月額四〇万円の四〇日分に当たる五三万三三〇〇円の休業損害を被つた。

(予備的主張)

前記のとおり、竹の屋商店は原告の個人会社であるから、原告の休業によつて会社に生じた損害を請求しうべき場合にあたるところ、同会社の事故前一年間の総売上は二三五一万五二〇八円であつたが、不動産業の業種別収益率は七三・五パーセントであり、原告の右収益に対する寄与率は六〇パーセントを下らないから、同会社のいわゆる企業損害の額は、次の計算式のとおり、一一三万六四六一円となるところ、このうち五三万三三〇〇円を請求する。

2351万5208×0.735×0.6÷365×40=113万6461

(四) 慰藉料 八〇万三一六一円

前記の原告の傷害の部位、程度、通院の期間、実日数、休業期間に加えて、原告は、昭和五七年一〇月一六日以降も同年中は体調に異変を生じていたが、竹の屋商店が極めて小規模な個人会社であることから、長期間の休業ができないため、自らの意思で同日をもつて通院を中断したものであることを考慮すると、原告の本件受傷による慰藉料は八〇万三一六一円が相当である。

(五) 弁護士費用 二〇万円

原告は、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その着手金として二〇万円を支払つた。

4  よつて、原告は、被告ら各自に対し、本件事故による損害賠償として一六三万四六〇七円及びこれに対する本件事故の日の翌日である昭和五七年九月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の各事実及び被告らの責任はいずれも認める。

2  同3の事実はいずれも不知。

3  同4の主張は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)及び同2(責任)の各事実、並びに被告らに責任があることは、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、損害について判断する。

1  治療費 七万七七〇六円

原告本人尋問の結果により原本の存在とその成立が認められる甲第二号証の一、成立に争いのない甲第三号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故による傷害の治療のため、事故当日である昭和五七年九月七日から同年一〇月一六日まで第三北品川病院に実日数一八日通院し、その治療費として少なくとも右金額を支出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  通院等交通費 九四八〇円

前掲甲第二号証の一及び原告本人七尋問の結果によれば、原告は、前記通院等のための交通費として右金額を支出したことが認められ、右認定に左右するに足りる証拠はない。

3  休業損害 五三万三三〇〇円

官公署作成部分の成立に争いがなく、その余の部分は原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第一号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、不動産業を営む竹の屋商店の代表取締役であり、同会社においては、宅地建物取引業法による有資格者は原告のみで、不動産仲介・管理の業務に直接携わつているのは専ら原告であること、そのほか同会社には、図面・契約書等の作成に携わる男性一名、一般事務に携わる女性一名がおり、同会社は右三名で運営されている小規模な会社で、実質的には原告の個人会社であつて、原告には同会社の機関として代替性がなく、原告と同会社とは経済的同一性があること、原告は、本件事故による前記受傷のため四〇日間休業したが、その間も同会社から従前と同様に役員報酬名下に月額四〇万円の支給を受けてきたこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右の事実によれば、原告の稼働内容からみて、右月額四〇万円の役員報酬は、原告の労務の対価として支給されていたものと認められるところ、竹の屋商店は、休業中の原告に対し、労務の提供を受けないにもかかわらず役員報酬を支払つたもので、いわば損害賠償債務を負担する被告らに代わつて休業損害の立替払をなした関係にあるものというべきであるから、同会社は、被告らに対し、事務管理の規定の類推適用により、右支払によつて被つた損害の賠償を求めることができるものというべきであるが、右のとおり、同会社は実質的には原告の個人会社であつて、原告と同会社とは経済的同一性があることに照らすと、右立替払による同会社の損害は原告の損害と同視しうるものであつて、原告において、被告らに対し、右立替払分の損害の賠償を求めることができるものというべきである。

したがつて、被告らは、原告に対し、月額四〇万円の四〇日分に当たる五三万三三〇〇円(一〇〇円未満切捨)の支払義務がある。

4  慰藉料 三六万円

前記の原告の傷害の部位、程度、通院の期間、実日数、その他本件において認められる諸般の事情を考慮すると、原告の本件受傷による慰藉料は三六万円をもつて相当と認める。

5  弁護士費用 一五万円

弁論の全趣旨によれば、原告は、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その着手金を支払つたことが認められるところ、本件事案の難易、審理経過、前示認容額(合計九八万〇四八六円)等本件において認められる諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、一五万円をもつて相当と認める。

三  以上によれば、原告の被告らに対する本訴請求は、本件事故による損害賠償として、被告ら各自に対し、一一三万〇四八六円及びこれに対する本件事故発生の日ののちである昭和五七年九月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林和明)

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